TENDRE POISON ~優しい毒~
写真には楠兄妹が二人で写っていた。
兄がカメラを持っているのだろう、手前に腕が伸びていて二人とも制服姿だった。
まるで恋人のように寄り添って笑顔を見せてる二人。
知らない人間が見たらただの仲良しカップルに見える普通の写真だ。
「これをね、乃亜姉の部屋で見つけたんだ。ゲーテの詩集に挟んであった」
ゲーテ……
僕は読んだことがなかった。
けど、楠は本が好きでいつも何かしら読書をしていたことを思い出す。
「この写真を見つけたとき、乃亜姉の好きな人は明良兄なんじゃないかって思ったわけ。
だったら何故先生の名前を呟いたのか、乃亜が目覚めてこの三ヶ月間あたしなりの仮説を組み立てたわけだよ。
仮説は的中だった」
雅は指で写真を弾いた。
雅の手を離れた写真はひらひらと宙を舞って風に流された。
一枚の写真はどこまでも、どこまでも遠くへ風によって運ばれていく。
「もうあんな写真隠し持ってる必要なんてないしね」
「うん……」
「バカだよね。乃亜も」
自嘲じみた笑いが零れる。
「ホンットばか……」
どこか遠くの方を見て、鬼頭は空に向かって呟いた。
この声が、どうか楠に届きますように。
そして、生きる意味を、愛する本当の意味を彼女に知ってほしい。
「さて、と。用は済んだしあたし行くわ」
雅は顔を上げるとすっきりとした笑顔で、僕を見た。
その笑顔は、抜きんでるような青い空よりもすっきりと晴れ渡っていた。