TENDRE POISON ~優しい毒~


「いや!ごめん!いまのなし。車だし、ついついツレと居るときみたいになっちゃって。


教師が軽々しくカラオケなんて誘ったらだめだよな。


うん。だめだ。本当にごめん」


神代は早口に言って慌てる。



そりゃそうだろ。


教師と生徒が……なんてありえない展開だ。


まぁ今の口調からして下心は欠片もなさそうだけど。


なんて言うの?


親しい友達を誘うような、そんな気軽な口調だった。


こいつ天然??教壇から降りると、少しあたしが心配になるぐらい抜けてるところがある。


大体教師と生徒がカラオケに行こうものなら、それだけで大問題だ。



問題に―――





「いいよ。行こうよ」


あたしは神代の横顔に向かって言った。




「え?いや、僕のは冗談だから、気にしないで」


「そうなの?あたしは先生と行きたいな」


あたしがちょっとむくれて見せると、


「じゃあ、今度機会があったらね」と言ってちょっと笑った。





機会があったら……なんて、何て便利な言葉。


90%の確率で実行することはないのに、相手に気を持たせる言葉。





あたしはちょっと残念に思った。


もちろん神代を引きずり落とすのにいい作戦が失敗に終わったことに。








それにしても……




ホントに見事に女の影がない。





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