TENDRE POISON ~優しい毒~
「いいよ。それじゃね」
短く言ってあたしは今度こそ電話を切った。
明良兄にケータイを放ってよこす。
明良兄は空中でキャッチすると、
「すげぇな」と一言呟いた。
「こんなもんよ」
「でも、犬見せてもらうためって言っても神代の家に行くんだろ?
二人きりじゃねぇか」
明良兄がちょっと顔を歪めた。
あたしは頬杖をついた。
「あいつに何かする度胸なんてないよ」
さらりと言ったけど、あたしは目を細める。
そう……あいつに何かする度胸なんてない。
筈なのに、何で乃亜に手を出した?
何でもないような聖人ぶってて、豹変するのか?
あいつ……あの保健医のように。
思い出して、あたしは思わず親指の爪を噛んだ。
「あいつ……
あの保健医をとりあえず何とかしなきゃ……」