獅子が招いてくれた恋
“彼”が俺らに気付いたらしく、こっちへ向かって来る。
『河野さん、彼、名前知ってるんですか?』
「いんや、知らない」
呑気に“彼”に向かって手を振っている。
てか、知らないってどういうことだよ…
つーか“彼”、童顔だな。
なんとなくはるかに似てるし。
「お久しぶりでーーす!」
“彼”の声の視線は河野さんだったけど、すぐに俺の方へ切り替わった。
『はるか!?』
「まこちゃん!?」
一瞬どうしていいか分からなかった。
誰のどういう人違いなのか。
誰のどういう勘違いなのか。
全く予想ができない。
とにかく、
『河野さん!この子、“彼”じゃないですよ、“彼女”ですよ?女です、お・ん・な!』
頑張って説明したけど河野さんは、
「んっ?」
なんて言ってるし…
あぁー、何?どゆこと?
「この人、まこちゃんの知り合い?」
そうだよ、この人は俺の知り合いだよ。
会社の先輩で、仲良くしてもらってんだよ。
「彼、太田くんの知り合い?」
そうだよ、こいつは俺の知り合いだよ。
だけどこいつは“彼”じゃないんだよ。
『もういい!はるか、このおじさんに自己紹介しなさい』
河野さんは20代で全然おじさんじゃないけど、そのおじさんの手首を掴んで揺すりながらはるかに強く言った。
「えーと、矢部はるか18才。丘崎工業高校電気科の3年生です。女子高生です。」
はい。
よくできました。