獅子が招いてくれた恋
『なあ、さとし、あいつ誰だか分かる?』
「どの人ですか?」
さとしの頭を掴んで俺の目線に合わさせた。
「あぁ、はるかですよ」
『はるかぁ!?』
「はい」
『はるかって…、矢部か?』
「はい、矢部はるかです」
矢部はるか。
まあ懐かしい名前を聞いたもんだ。
『そうかあ、良い女になったな』
「確かになりましたね」
『良い女がひとり』
俺ははるかを指差した。
その指をそのままさとしへ向けた。
『良い男も…ひとり』
さとしは少し慌ててる。
『お前暇人だろ?今から御輿手伝え』
「はぁ!?俺、見物に来ただけですから!」
そう言って後退りする。
『俺に声かけたのが失敗!ほら、ハゲんとこ行って担ぎますって挨拶してこい。ほら、ダッシュ!』
これで担ぎ手が増えた。
誰かも分からない小中学生に怯えて、苛立つ必要がなくなった。
さとしとはるか。
2人も舎弟が居れば十分だ。
これで俺は俺色で御輿が担げる。