獅子が招いてくれた恋
『なぁさとし、はるかどこ消えた?』
「あそこですよ」
さとしの視線の先、鳥居の向こうにちっちゃい背中…
「行ってあげて下さいよ。俺、親父と一緒に帰るんで」
そう言えばさとしの父ちゃんもお神楽衆だったっけな。
さっきの締めで力が抜け気ってしまったせいか、地下足袋で石段を掛け降りると身体中に痛みが走った。
『おい、そこの小娘!なぜに上まで来んかった!?』
はるかが腰掛けている1段上に俺も腰を下ろした。
「喪、明けてないんだ」
ニカッと微妙な笑いを見せられた俺は正直困った。
『明けてないなら祭り出てんじゃねえよ。で、誰が死んだのさ?』
俺も軽く笑い返した。
「じいちゃん。4月に死んだの」
今度ばかりはお互い笑ってなかった。
はるかんとこのじいちゃんっつったら…
『あの…。学校の植木っぽい木の手入れしてくれたり、展示用にって竹細工寄付してくれたりしたじいちゃん?』
「そうっ、そのじいちゃん。表向きは老衰だから幸せな最後設定さ」
表も裏もどうでもいいけど、正直ショックだ。
俺はあのじいちゃんが好きだった。