獅子が招いてくれた恋
ユウヤに第一ボタン?
そんな話が過去にあったような、なかったような…。
「ハルカ、別れても約束は約束。俺はお前のボタン貰うからな!」
「じゃっ」とか言って1人でアリーナを出て行った。
まさか、覚えてるとはね。
2年以上前の約束。
「あいつ、なんだよ」
マサヒロが呟いた。
「ハルカぁ、お前、幸せだぞ?」
あたしは首を傾げた。
だって幸せだもん。
毎日がたのしいから。
「あいつな、たぶんお前のこと、ずっと好きだ。」
『え…』
「2年前、野球部の部室の壁に描かれたお前とユウヤの相合傘があってさ」
『ん、知ってる。油性ペンででっかく…』
一度、タメの野球部員たちに無理矢理2人で部室に押し込められた時があった。
その時に目に入ってきた相合傘は、いびつなハートに波打った傘の部分。
極め付けは手でも身体でも隠しきれない程の大きさ。
「あんなでかいのに下手くそで…、俺だったら絶対キレる」
こんなことを言ってるけど、一番下手くそな傘の部分。
マサヒロが描いたってこと、ちゃんと知ってる。
「夏の大会が始まる前にさ。あいつ、その相合傘、写メ撮って大会期間中ずっと待ち受け画面にしてたんだぜ?」
「キモ…」
アサミが真顔でこぼした。
「俺もそう思う」って言ってアサミの肩に手を置いた。
「だからな、ハルカ?一応そんなわけだから、頭の隅でいいから覚えといてくれ」
マサヒロはアサミから離れると、あたしにじりじりと近寄った。
「火を付けんのは簡単だ。お前らの焼け木杭(やけぼっくい)は、乾燥・火災警報発令中だ…」
「キメた!」と言わんばかりの表情をしている。
確かにキまったし、言っていることは合ってると思う。
だがしかし!
少し寒いかもしれない。
〈はるかside、約束〉