僕の死に方
「……僕は思うんだ」
 ナイフからは眼を逸らさず、藤見正信にだけ聞こえるよう、小声で語りかける。
「藤見くんが彼らに苛められるのは、間違っている」
 頭の中で、何度も練習してきた言葉。
「藤見くんと友達になって、よくわかった。藤見くんは確かに臆病だけど、優しい性格をしている。頭だって良い。キミが苛められるのは、やっぱり間違っている」
 本心の言葉と、
「僕は、藤見くんのことが心配なんだ」
 偽りの言葉。

「藤見くんが、もしも自殺なんて考えているなら」
「……えっ?」
 藤見正信の表情が強張る。
 彼が自殺を考えるのは、予想していた。
 そうなるよう、彼が追い込まれるように計画を立てていたのだから。
「僕は、それも間違っていると思う。藤見くんが死ぬのは、間違っている」
 この言葉も本心の言葉。だけど、ほとんどが僕のための言葉だ。
「本当に死ぬべきなのは、藤見くんじゃない。藤見くんは、何も悪いことなんてしていないんだから」
 自然に、決して、害意など含めないように、一言。

「死ぬべき人間がいるとしたら、それは藤見くんじゃない」

 それだけ、口にした。
 それだけで、充分のはずだ。
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