左手のエース
静かに公園の方を見る。


そこには、青のTシャツに黒いキャップを被った東亮太が、やはり左手だけでボールを扱っていた。





前に、この公園で会ってからは、
意識的にこの公園の前は避けて走っていたけど、


おそらくアイツは、毎日練習に来ているんだろうな、と何となく感じた。






あたしは公園のフェンス越しに、アイツの動きを目で追う。


右腕が動かないと言うのに、本当に滑らかな動きをする。




きっと、もともとが凄く上手かったんだろうな…。

息を整えながらそう思った。






あたしはくるりと方向変換すると、来た道を引き返す。






あたしが、アイツに言った最後の言葉が脳裏に浮かんだ。




"諦めて辞めちゃうような根性なしにとやかく言われたくない"






続けて、

徳ちゃんに退部届けを出す姿や、
片手だけでも練習する姿が思い浮かぶ。






あたしはモヤモヤした気持ちを揉み消すように、ジョギングのペースを速める。







「はぁ……はぁ…

…そんな簡単に

諦めたわけじゃないよね…」




あたしはそう呟きながら、
チカチカと光りながら働いている自動販売機の前で、そっと足を止めた。
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