左手のエース
「さっき、他の先生が、
授業が始まる直前に、
お前がバレーボール片手に
軽快な足取りで階段を駆け上がっていった、という

目撃情報が先生の耳に入ってきたぞ?」






…サボったの、ばれてる。



「お前が部活一筋なのは先生も充分に理解してるつもりだがな、しかしお前は…」




「ま、待って、徳ちゃん!!


その話の続きはすごーく気になるけど、

ちゃんと授業受けてる人達に迷惑だから、
あたし、また後で聞く!!

授業進めよ、徳ちゃん。」




「……まあ、それもそうだな。」




徳ちゃんのマシンガントークに何とか歯止めを掛けることができ、
ほっとしていると、




「じゃあ、後で数学の課題をクラス分集めて職員室に来なさい。

話の続きはそん時にな。」




徳ちゃんはニカッと歯を見せて笑い、授業に戻った。






しまった…

徳ちゃんのが一枚上手だったか。


しかも課題やってないし。







あたしが大きくため息をついていると、

亜耶が「ドンマイ」と笑って
数学のノートを差し出ながら言う。





「軽快な足取りって…。

想像したら吹き出しそうになったし。」





「どれだけあたし単純なんだって。」





あたしは自分に嫌気がさしたように顔をしかめてみせると、

2人で静かに笑いあった。
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