水嫌いマーメイド
「おめでと妃泉!」
噂を聞き付けた可耶が、部活終わりの更衣室で1人拍手の祝福をしてくれた。
『ありがとね、可耶』
「副キャプになっても、よろしく」
『何か、今まであたしがハミってたみたいな言い方ね?』
“ないない”と顔の前で右手を振りながら、左手で掴んだタオルをあたしの顔面に押し付けて
「で?晴れて、水沢と副キャプになった訳だ?」『……う、ん…』
「良いな~妃泉は!好きな人が居て」
『独り身だもんね』
「うるしゃい!」
『あ、噛んだ』
「あ゛ー!むかつくっ」
ほんっと今日あたしはツイてる。多分、今なら殺されても、未練も無くあの世に逝ける!
(とか言ってまだ、死ねないんだけど……)
「あ、妃泉ちゃん!」
『先輩……』
「はい♪副キャプ就任祝い!なんちゃって☆」
『……はぁ…』
小さな紙切れを、あたしに渡すだけ渡して、逃げるように先輩は足早に去った。
「おぉ?!何か、美味しい匂いがする~♪」
『……紙なのに?』
「違うわよ!こう…事件とかの匂いよ」
『ふーん…?』
事件ねぇ……。
ちょっとした事で“事件”なら警察も、たまったもんじゃ無いよ…。
とりあえず、渡された紙切れを開けた。ピラピラと裏を見たり、表を見たり。裏を見ると…うわっ、これ学年通信じゃない!!
『…あれ~?幻覚かなぁ……可耶』
「どぅしたのよ」
『何も書いてない』
「はぁ?!何も書いてない?!どんなおバカがしたイタズラよ!」
可耶の更衣室に響くほどの絶叫が、あたしの耳を貫いた。
人のとっさの力って未知数。ギネス取れるんじゃない?って時がある。
「でも、あの先輩はイタズラするような人じゃ無いからなぁ…」
『うん……』
「差出人のミス?じゃ、差出人は誰なのよ」
それに、文字が書いてない、宛名も無いから筆跡じゃあ分からない。あれ?この紙って確か…
「どうした?何か見つかった?」