いつかきっと
さよなら
夏祭り当日
午後6時10分
香絵との約束は6時丁度で、10分遅刻していた。
いや、いまから会場に向かうわけだから、確実にもう10分は掛かる。
…昨日、あれから少し考えた。
今日はすっぽかそうとか、今からでもメールで断ろうとか。
…でもどれも駄目で、今に至るわけだ。
「じゃあ行ってくる!」
玄関で、奥にいる親に向かって言った。
「7時ちょっと前には帰ってくるのよー」
母さんがそう返した。
俺はへーいと返事して外へ出る。
遠くの空ではもう既に花火が上がっていた。
微かに祭りの音楽が聞こえてくる。
「…行くったってな~」
どうせものの10分で帰ってくるんだ。
そして直ぐ空港へ行って…祭りが終わる頃にはとっくに俺は東京だ。
「この町とも、長い付き合いだったなぁ」
田んぼのあぜ道を歩きながら呟いた。
周りを見渡すと、どこも何の変哲もない景色。
だけど今日は少し違って見えた。
この空も木々も、小さく見える通い慣れた学校も、何だかとても美しく見えた。
耳を澄ますと蛙の鳴き声や虫の音が聞こえてきて、心地いい。
大きく深呼吸する。
都会の空気は汚いらしいから、今のうちに沢山吸っておこう。
ふとそんなことを思った。
「…あ、圭太!」
香絵は神社の鳥居に寄りかかって立っていた。
俺を見つけると、慣れない下駄で駆け寄ってくる。
「良かった、こないかと思って心配してたんだ」
そう言ってにこっと笑う。
やべ…超可愛いんだけど…
今年はいつもと一味違う、大人っぽい浴衣だった。
淡い紫に控えめな花柄のもので、髪はサイドで一つに束ねて簪で留めていた。
午後6時10分
香絵との約束は6時丁度で、10分遅刻していた。
いや、いまから会場に向かうわけだから、確実にもう10分は掛かる。
…昨日、あれから少し考えた。
今日はすっぽかそうとか、今からでもメールで断ろうとか。
…でもどれも駄目で、今に至るわけだ。
「じゃあ行ってくる!」
玄関で、奥にいる親に向かって言った。
「7時ちょっと前には帰ってくるのよー」
母さんがそう返した。
俺はへーいと返事して外へ出る。
遠くの空ではもう既に花火が上がっていた。
微かに祭りの音楽が聞こえてくる。
「…行くったってな~」
どうせものの10分で帰ってくるんだ。
そして直ぐ空港へ行って…祭りが終わる頃にはとっくに俺は東京だ。
「この町とも、長い付き合いだったなぁ」
田んぼのあぜ道を歩きながら呟いた。
周りを見渡すと、どこも何の変哲もない景色。
だけど今日は少し違って見えた。
この空も木々も、小さく見える通い慣れた学校も、何だかとても美しく見えた。
耳を澄ますと蛙の鳴き声や虫の音が聞こえてきて、心地いい。
大きく深呼吸する。
都会の空気は汚いらしいから、今のうちに沢山吸っておこう。
ふとそんなことを思った。
「…あ、圭太!」
香絵は神社の鳥居に寄りかかって立っていた。
俺を見つけると、慣れない下駄で駆け寄ってくる。
「良かった、こないかと思って心配してたんだ」
そう言ってにこっと笑う。
やべ…超可愛いんだけど…
今年はいつもと一味違う、大人っぽい浴衣だった。
淡い紫に控えめな花柄のもので、髪はサイドで一つに束ねて簪で留めていた。