いつかきっと
「じゃ、行こっか!」

香絵は俺の手を取って石段を登る。

俺は香絵に引っ張られるかたちで歩いていた。

…石段を登りきるとそこは、例年変わらない祭りの景色が広がっていた。

神社の前には様々な屋台が所狭しと並び、小さな子供から老人まで大勢の人で賑わっていた。

そしてそれは、神社の裏の道にも続いている。

あわせると結構な長さの道だが、毎年人でいっぱいになるんだ。

少し行った先のひらけたところにステージが設置され、踊りや太鼓が披露される。

「ねぇねぇ、なに食べよっか!」

「…お前は食べることばっかなのな」

香絵の頭を優しく撫でて言った。

「いいじゃんーお腹すいたんだもん」

頬をぷぅっと膨らませて拗ねたように言う。

だから…その顔は反則。

まじ可愛すぎるんだって…って、俺結構重症かもな。

もうすぐ会えなくなるってのに…。

それから数分――

俺はこっそりと腕時計を確認する。

40分…そろそろ帰らねーと…。

「圭太? どうしたの、さっきから…」

「い、いや…なんでも」

さっきからって…俺もしかして楽しくなさそうな顔でもしてたか!?

「圭太…笑ってるけど笑ってない…」

え?

「なんかいつもと違う。…そんな気がする」

…………

仕方ない。もう時間切れだ。

楽しい時間の終わりがきてしまった。

「香絵」

そう呼びかけると、ビクッとして顔を背けた。

「香絵、あのさ…」

「ほ、ほら! あっち行ってみようよ! なんかやってるよ!?」

香絵は俺に背を向けて歩き出そうとする。

けど、その腕を掴んで無理やりこっちを向かせた。
< 21 / 29 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop