心の在り処
ふふっ。
わたしはね、愛しの彼を偶然見かけてそれはそれはもうすごく嬉しいの。胸がはち切れちゃうって、こういうことなのね。
歓喜に震える体をさりげない仕草に見せかけて落ち着かせているわたしって、ちゃんと場をわきまえているでしょ?
場をわきまえる大人のわたしは、彼に馴れ馴れしく話しかけない。ただじっと、じっと彼を見つめるの。
するとアラ、ふしぎ。
彼の目が広がった。
彼の瞳孔が広がる。
彼の上唇が膨らむ。
彼の額が寄ってく。
彼の唇が水平に伸びる。
信号越しでも彼の表情は事細かにわかっちゃうの。
鼓動は加速加速加速。
冷や汗もダラダラでああんもう、舐めてあげたい!
だってだって、わたしは彼を愛してるんだから!
彼の気持ちも、手にとるようにわかっちゃう!
彼はね、照れ屋で不器用で素直じゃないけど、隠し事がすっごくヘタなのよ。
だから、今も隠しきれていないわ。
わたしを恐がって、心の底から怯えているということに。