曇りゾラ。
その足で、ゾラさんの案内でマンションを訪れた。
今住んでるアパートからは少し遠いけど、バイト先からは近い場所にあった。

入り組んだ道の奥にひっそりと佇む小綺麗なマンション。部屋は2階の突き当たり。

表札もなにもないシンプルなドアの向こうには、清潔感漂う、生活感があまり感じられない部屋があった。
広々としたリビングを挟んで、2つの部屋。
中を見てみようとドアノブに触ると「あ、僕の部屋ちらかってるから開けないで」と、少し慌てた様子でゾラさん。

「ごめんっ」

ドアから離れ、話題を変える。

「そういえば、まだ本名言ってなかったね」

「…あぁ、そういや僕もだ」

これからルームメイト(?)となるふたりなのに、互いの名前も知らないなんて。
なんだかおかしくて、顔を見合わせてくすくす笑う。
「私、千代子。野宮千代子って言います」

「高木……渉」

そういって、差し出された彼の手を握り軽く握手した。
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