凶漢−デスペラード
「…しかし、中にはきちんと経営されている店も少なく無い。地域に根付いて、まっとうにやろうとしている店も、それらの店のお陰で同類と見なされ、経営に影響が出ているのが現状だ。それに、悪質な客引き行為のお陰もあって、周辺の環境が悪化し、他業種の者達にまで影響が出始めて来ている。わしらの居る百軒店界隈も実はそういった店の影響でいろいろと差し障りが生じているんだ。今、かつて新宿でそういった店をやっていた連中が増えて来てな、かなり悪質な事をしているようなんだよ。以前は、ヤン君がこの界隈をきちんと仕切ってくれていたから、何も問題は無く、所轄の渋谷署とも上手く行っていたんだ。まあ、それには、彼の奥さんの力も大きいがね。その話しは後にするとして…新たに入り込んで来た中国人グループは、この土地でしっかり根を下ろして、という考えはまるっきり無いようなんだ。稼げるだけ稼いでといった具合だから、当然トラブルも多い。警察も幾つかの店は挙げたが、奴らはゲリラ的に店を開店してるから、現状はイタチごっこなんじゃ。そんな中、このヤン君から、渋谷を新宿の二の舞にさせない為にも、自分が何とか以前のように一本にまとめたいので、是非、相談に乗ってくれと話しがあったんだ。わしら商店会でも、奴らの話しが前々から出ていて、どうにかならないものかと頭を悩ませていたところだったんだ。わしは、親栄会の連中にも何度かこの新しい中国人グループの話しをしたんだが、どうも今の連中ときたら、目先の金にばかり気持ちが行ってるせいか、余り熱心に耳を傾けんのじゃ。自分達の足元にも火が回って来てるとも気付かんにだ。そんな中で、このヤン君からだな、神崎君の名が出て来たんじゃよ。」

ヤンが竜治の顔を見てニコッと微笑んだ。

「さっきわしは、ヤン君の事を立派な実業家と言ったが、世間的には残念ながらそうは思われていないようだ。日本人の奥さんを貰い、お母さんにしたって、元は日本人であるのにだ。中村という日本名迄あるというのに、世間一般では楊小龍であり、問題を起こしている中国人達と同じと思われている。彼がこの街の事を思って行動を起こそうとしても、誰も彼の言葉に耳を貸そうとはしない。彼の行動が、単なる私利私欲から出ているものだと見られているんじゃよ。義に厚かった筈の日本人の心なんちゅうものは、廃れてしまったのかと悲しくなって来たわ…」
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