凶漢−デスペラード
「…一人位そういう日本人は残っておらんのか、という話しになった時…」

「自分の名前が彼から出たという事なのですか?」

「ヤン君は、随分と君を褒めておった。」

竜治は、何だか芝居がかった古森の物言いに、心無しか醒めた気分になっていた。

ずっと口を閉ざしていたヤンが話し始めた。

「私が直接表に立てば、誰もが単なる中国人同士の縄張り争い位にしか見てくれません。しかし、神崎さんが奴らと正面切って向かい合えば、間違い無く他の人達も動きます。」

「奴らと向き合うと言ったが、一体、どう向き合うんだ?まさか、店に乗り込んで力ずくで出て行けと?」

「暴力という手段を最初から取るつもりでしたら、何も神崎さんの力を借りる必要はありません。ビジネスの戦いで奴らを追い込みます。」

「……。」

「神崎君、話しはこういう事だ、奴らが現在出店してるあらゆる店に、強力な競合店をぶつけ、叩き潰す…更に新たな物件を奴らが出せないよう、こっちで押さえてしまう。エステに限らず、デートクラブ、裏カジノ、ゲーム屋、連れ出しパブ、全部が相手だ。」

「私にその先頭を切れと?」

「君がリーダーだ。それを裏から助けるのがヤン君という事になる。」

「そういった資金は何処から出るんですか?まさか自前でやれとおっしゃるわけではありませんよね?」

竜治の物言いに、一瞬、古森は表情を強張らせた。
それを直ぐさま察したヤンが、

「資金面は勿論私の方から出ますが、もし、神崎さんの方でも動かせる資金があれば出して貰えませんか?絶対に無駄金にはさせません。」

「私は金を惜しむ気持ちで言ってるのではありません。古森さん、私が澤村の元で仕事を任されているのをご存知ですよね。つまり、自分の金で新しい仕事をするには、必ず澤村に一言話しを通さなきゃならないんです。私個人が始めるという事にしても、このヤンと組むという事になれば、いろいろと差し障りが出て来ると思うんです。」

「神崎君、わしは、これでもブヤの古森と言われた男だよ。君にこうして話しを持って来てる時点で、わしなりに考えうるべき事は全て考え、こうして君に頼んでいるんだ。この老いぼれが一枚噛んでいるという事だけでは不服かね?」

古森の目に、竜治をすくませるような殺気が宿っていた。
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