凶漢−デスペラード
殺気のようなものを感じた竜治は、完全に古森に気を呑まれてしまった。

「申し訳ありませんでした。そこ迄おっしゃられるのでしたら、役に立てるかどうかは判りませんが、お言葉に従い、やらせて頂きます。」

竜治の返事を聞いて、古森は再びにこやかな表情に戻り、

「良かった、良かった。」

と言って、じゃあ細かい話しとかは当事者同士でと一言残して帰って行った。

テーブルには、竜治とヤンだけになった。

古森が去った後、暫く沈黙が二人の間を支配した。

「神崎さん、老酒はお好きですか?」

考え事をしていた竜治は、最初、何を言われているのか判らず、

「えっ?」

と聞き返した。

「心ここに在らず…のようですね。」

「ああ…老酒は飲んだ事が無いんだ。」

「ならば是非にもお勧めしなくちゃ。取って置きの老酒があるんです。」

と言って、ヤンが従業員を呼び、酒の用意をした。

「古森先生はアルコールが駄目だったのでお出ししなかったのですが、これは最高級の老酒です。神崎さんとの新しい友情の始まりを祝福するには、打ってつけの酒です。さあ、ぐっと、乾杯といきましょう。」

小さなショットグラスに注がれた琥珀色の液体を二人同時に飲み干した。

火が点いたように喉が焼け、胸が爆発した。
それが収まると、ほんのりとした甘味と、軽い香草の匂いが口いっぱいに充満した。

「俺は、余り酒の事を詳しくないから、この酒があんたが言う程高級な物かどうかは判らない。けど、旨いとは感じる…」

「旨いと感じられればそれでいいじゃないですか。私と一緒に飲む酒を美味しいと言って下さる…それで充分です。」

ヤンが再びグラスに酒を注いだ。

「では、今一度、カンペイ…」

「乾杯…」

一杯目の時以上に、甘味と香草の香を感じた。

「酔い潰されてしまいそうだな……」

「ポーカーではやられましたが、飲み比べなら負けませんよ。」

二人は、互いに視線を外さず、じっと見合った。

一拍、間を置いて二人同時に声を出して笑い合った。

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