凶漢−デスペラード
ヤンの店を出てから、竜治は道玄坂周辺を暫く歩いてみた。

竜治の顔を見知った者は、声を掛け挨拶をして来る。

気持ちよさ気に酔ったサラリーマン達が、キャバクラのキャッチや、ポン引き達に次々と声を掛けられ、中には金額の交渉が成立したのか、案内されて行く者もいる。

既に、路上には中国人の若い娘達がしきりに客を引いている。

竜治は、この界隈では顔が知れているから、彼女達もさすがに声は掛けて来ない。

よくよく見ると、かなりの人数が居る。

僅か100メートルばかりの間に、十人近くの女が立っている。
反対側も含めれば、十五人は下らない。

これに、文化村通りの方と、道玄坂小路も含めれば、三十人からの女が居る事になる。

昔から居るポン引きに詳しくその辺りを聞いてみると、周辺の店側も、客引き連中も、皆、強引な客引きをする彼女達に頭を悩ませていると言う。

彼女達のせいで、かなりの客が、道玄坂に足を向けなくなって来ているらしい。

派手なぼったくりこそ無いものの、結構な金額を取られて、満足なサービスも受けられず、帰された客の話しは、腐る程あるという。

路上に立たす以上、ヤクザに話しは通している筈だ。

渋谷は親栄会の縄張内だ。

竜治は、澤村に電話を入れてみた。

「実は……」

竜治は、古森から持ち掛けられた話しを伝えた。

(その事に関してなんだが、詳しい話しは電話では出来ないから、今からマンションに来てくれ。)

と言われた。

久美子が居るかも知れない……

いや、この時間なら店の方か?

なんと無く、久美子が居る前では、こういった類いの話しをしたくないと思った。

マンションに行くと、部屋には澤村だけが居た。

心持ち、気が楽になった。

「飲むか?」

「いえ、大丈夫です。」

澤村はそれ以上勧める事は無く、自分の分だけウイスキィを作った。

「古森のオッサンの話しだが、あれは、俺の方から根回ししたもんなんだ。」

「……」

「今、うちが跡目を巡って、いろいろとややこしい事になってるって事は知ってるか?」

「いえ、詳しくは…」

「正確に言うと、次の次なんだけどな……」

そう言って置いて、澤村はなかなか話しの続きをしなかった。
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