凶漢−デスペラード
澤村のマンションを出て、深夜の道玄坂界隈を今一度歩き回ってみた。

左右の歩道には、相変わらず中国人娘の客引きが、酔客を狙って声を掛けまくっている。

それを見ながら、日本人のポン引き達が渋い顔をしている。

顔見知りのポン引きが、竜治に気付き挨拶した。

竜治はそのポン引きに近付き、声を掛けた。

「景気はどうだい?」

「さっぱりですよ。」

「奴らのせいか?」

「ほんと、邪魔でしょうがないっす。元々、渋谷の客引きって、店自体がぼったくりとかしてなかったんで、結構真っ当に商売してたんすけどね、中国人のせいで、最近客達が渋谷で遊ばなくなって来たんす。とにかく、しつこくって…こっちは仲間内で暗黙のルールを守りながら、上手い具合にやってこれたんすけどね…所轄も、前は渋谷の風俗街は歌舞伎町と違って、客引きのトラブルが無いから、感心だァ、なんて大目に見てくれてたんすが、奴らのせいで警邏の巡回やら私服やら、ほんと増えちまって…」

ポン引きは、話し出すと、何時迄も中国人達への苦情を喋り続けた。

「奴らをこの街から居なくさせるにはどうしたらいい?」

「店が失くなっちまえば、キャッチの女達も、必然的に立たなくなると思いますが、どうせすぐ又別な場所に店を構えたり、マンションで隠れてやったりしますから、結局いたちごっこになるだけなんでしょうね…」

「これ以上ポン引きを増やすとどうなる?」

「増やす?そんな事したら、尚更渋谷に人が流れて来なくなりますよ。」

「今以上に食えなくなるって事か…」

「俺達だけじゃねえ、店の方にしたって、潰れる店がわんさか出るんじゃねえですか…」

「一時だけならどうだ?」

竜治は、ポン引きと喋りながら、単純に閃いた事を口にした。

「中国人娘達に、こっちのポン引きをべったり張り付かせ、奴らに一切声を掛けさせないようにする。当然、ポン引き同士もなかなか客が引けなくなるから、その間の収入の保証はする。どうだ、これなら?」

「金を保証って、それは神崎さんが?」

「ああ。」

「エンジェルキスを閉めてから、風俗の方は手え出してなかったのに、又始めるんですか?」

「いや、店はやらないよ。カジノで充分だ。狙いは奴らを干上がらせる事さ。」
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