凶漢−デスペラード
目と目が合った。

一瞬、立ち止まった二人の男は、横に並ぶようにして、竜治を通させまいとした。

全身が緊張し、血がひんやりとした。

背後に人の気配がした。

振り返ろうとした所をいきなり殴られた。

そう思ったが、実際は違った。

左のこめかみに衝撃が走ったのと同時に火花を見た。

石段の右側は、人一人分の通路のようになっていて、建物の裏口になっている。

そこに倒れ込んだ。

竜治は、無意識のうちに、そこにあったポリバケツを投げた。

爆竹を鳴らしたような音が立て続けに起きた。

右腰に、ズシンと来た。

倒れている竜治の目の前に男の足があった。

その足を両手で掴もうとした。

抱え込むようにして男を引きずり倒そうとしたが、力が入らなかった。

騒ぎを聞き付けたのか、何人かの男の怒声と走り寄る足音が、雨の音を掻き消した。

男は既に銃弾を撃ち尽くしたのか、掴まれていない足の方で竜治をひたすら蹴り続けていたが、ヤンの店から何人かの男が来たのを見て逃げようとした。

しかし、竜治は手を離さずしがみついていた。

左の目は、流れ込む血が入り、既に見えなくなっている。

足を掴んでいる手も血だらけだ。

痛みは感じなかったが、腰から下に力が入らない。

不意に両手から男の足が抜けた。

逃すまいとして手を延ばしたが、誰かがその手を押さえるかのようにして掴んだ。

竜治の身体が浮いた。

何本もの手が竜治の身体を支えていた。

暗い夜の空から、銀色に光る雨が見えた。

ヤンの店を通り過ぎ、隣のビルに竜治は運ばれた。

エレベーター横の鉄の扉が開いた。

十畳程の広さの事務所だった。

周りの男が口々に何か喚いていたが、竜治の耳には何も聞こえて来なかった。

少しずつ薄らぐ意識の中に、ヤンの顔を見たが、それも、あっという間に消え去って行った……。
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