凶漢−ﾃﾞｽﾍﾟﾗｰﾄﾞ

その変化は尚武会側の方に大きかった。

直接、親栄会と揉めたという訳では無いが、事情を知る者はそうとは受け取らない。

幾ら尚武会の力が大きいと言っても、渋谷という街だけで考えれば、彼らは所詮他所者である。

何十年も前から渋谷を根城にしていた旧百人会を抱えてる親栄会に全ての状況が味方した。

それは、ヤクザでは無く、堅気であり、警察であった。

暴力団を必要悪と認める者達にしてみれば、必要以上の暴力団は不要なのである。

それは外国人達に対しても同様だった。

限られた器の中に、それ以上の物は入らない。

押し出されたのは尚武会であり、新宿から流れて来た中国人グループであった。

尚武会本部が、本格的抗争に発展する前に、各下部団体に抗争不拡大を通達した。

中国人グループも潮が引くように散って行ったが、それは決して諦めたのではなく、次のチャンスを狙っての地下潜伏であった。

尚武会の方は、表向き連絡事務所は残していたが、大方の人間は引き上げていた。

代わりに、正規な組員ではない人間が、飲み屋や、デートクラブを引き継ぎ、細々と営業していた。

竜治の姿が、再び街中で見かけられるようになった。

今迄以上に彼は畏怖の目で見られるようになった。

ぞんざいな態度を取っていたチンピラ達も、街で会えば先に頭を下げ、道を開けた。

初め、古森からヤンと手を組む話しを持ち掛けられた時、こうも簡単に事が運ぶとは思っていなかった。

数日前に澤村が言った言葉を思い出した。

「結果的にはお前が弾かれたお陰で事が収まったんだ。それも、運よく掠り傷程度だったから、双方共それ程の損失を出さずに済んだ。これが、もしおっ死んじまってたらどうなったと思う？お互い、出したくも無い鉄砲玉を出し合って、若い者が何人かあの世に行き、何人かが懲役に行く……出て行く金も一本や二本じゃ済まなくなるだろうな…一本って、一千万じゃねえぞ。一億だ。どんなに筋書き考えたって、こんなに上手く行くもんじゃねえ。今回の件で、うちは親栄会の中で一気に主役に踊り出た。今、俺達は舞台のど真ん中でドーンとスポットライトを浴びてんだぜ！」