凶漢−デスペラード
「ふうん……」

「何処でどうやって調べたのか知らないけど、その事を義兄は、奴らしいって言ったの。」

久美子の話したこのエピソードが、ひょっとしたら河田の全てを物語っているのかも知れない。

久美子が店に行った後、竜治の頭の中は、河田と荘に埋め尽くされていた。

得体の知れないどんよりと澱んだものが、大きく広がり始めていた。



翌日、自分の事務所で、前日の売上等を確認していた所に、浅井という男から電話が来た。

最近、雇ったばかりの女性事務員から受話器を受け取ると、まるで営業マンのような腰の低さを想像させる声が耳に入って来た。

「私が神崎ですが……」

(突然ですが、私は親栄会浅井組の浅井洋一と言います。いろいろとお話しをしたい事がありますので、ご足労ですが、お会いして頂ければと思いまして……)

親栄会と相手が名乗っている以上、会わない訳には行かない。

「私の方は、今からでも大丈夫ですが……」

(それは助かります。実は、そちらの近く迄来てるもので、神崎さんの事務所でも構いませんか?)

事務所で会うのは、何と無くまずいような気がした。

いろいろな人間の目がある。

古くから在る近くの喫茶店で会う事にした。

そこなら滅多に混まないから、少々込み入った話しになっても、周りを気にしなくて済む。

竜治が先に行っていると、直ぐに浅井がやって来た。

電話で話した印象とは打って変わって、やはりこの男も暴力の匂いを隠せない。

短く刈り上げられた頭髪、精悍な顔立ち、ぱりっと着こなされたスーツ姿は、どう割り引いて見ても、決してビジネスマンには見えない。

かと言って、ヤクザ崩れの金融屋とか、不動産屋といった風でも無い。

どちらかといえば、マル暴の刑事にいそうなタイプだ。

「はじめまして、突然お時間を作って頂いて申し訳ありません。」

立ったまま深々とお辞儀をし、名刺を差し出す仕草は、物腰の柔らかさを感じさせる。が、鋭い目付きは、判る者には浅井という人間が、かなりの者だと直感させる空気を持っていた。

「早速ですが、私に話しというのは?」

「はい…」

浅井は、声を一段下げ、語り出した。
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