凶漢−デスペラード
決しておためごかしのお世辞ばかりでは無いにしても、余り褒められ過ぎておだてられると気持ちが悪くなる。

そのうち、ひょっとしたら本当は、もっと違う話しがあるのではないかと、竜治は思い始めた。

「浅井さん、そろそろ本当の腹の中を見せてくれませんか?今日の本命は、まだ浅井さんの胸の中ですよね?」

浅井の顔から、ゆっくりと笑顔が消えた。

「おっしゃる通りです……神崎さん、私の未来に投資しませんか?少なくとも、河田の未来よりかは面白い絵が描けると思いますよ……」

「浅井さん、俺は親栄会に限らず何処の組の人間とも特定の繋がりを持つつもりはありません。金庫番になってくれとか、企業舎弟にならんか、一緒に会社をやろうとか、ここんとこ毎日のようにそういう話しが持ち込まれます。しかし、俺自身にその気持ちはありません。ただ、今の自分があるのは、親栄会の力による所も大きかった訳ですから、それなりの金はきちんと本部に納めさせて頂いてます。浅井さんが初めに話されたような、仕事としてのお付き合いなら、出来る限りの事をさせて頂きます。ですが、それ以上の事は……」

「神崎さん、貴方は澤村さんの跡を継いだ河田に、この渋谷を我が物にされても構わないのですか?」

「今の話しと、その話しがどう関係あるのか、自分には判りませんが、少なくとも俺は今では親栄会と直接の繋がりはありませんから、誰が跡を継ごうと関心はありません。」

「はっきり腹割って話しますが、死んだ澤村の兄貴分である蒔田が、次の次の親栄会の頭を狙っています。現若頭の西尾さんは、人間的にもこれ迄の実績に於いても、次の跡目を取る事にはなんら問題はありません。寧ろ、若い頃から次期会長との呼び声も高く期待されてた程です。年内には跡目継承があると思いますが、西尾さんは、この所持病の心臓の具合が思わしく無く、会長職を長く勤める気は無いと周囲におっしってます。結局、現時点で既に五代目レースが始まっているわけなんです。」

「その話しは、前に澤村から聞いています。」

「澤村さんの下で貴方が身を粉にしてこの街を手に収めた…こう言うと神崎さんは違うとおっしゃるでしょうが、結果的には貴方が手にした勝利は、澤村の兄貴分である蒔田の勝利になったんです。蒔田が五代目になれば、親栄会は間違い無く割れます……」
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