凶漢−デスペラード
そう言った浅井の顔は、苦汁に満ちていた。

いかに澤村の死が影響してるかが、竜治にも伝わって来る。

「西尾組の中でも、早くからその器量を認められて、若くして頭を務め、その実績を認められてはいますが、近い将来の五代目となると……せめて十年、いや、五、六年西尾さんが四代目を務めてくれたらと思うのですが、御本人は早ければ二、三年で引退するよと口にする位ですから……。」

「そういった事に関係無く、西尾さんの力で若杉さんを五代目に指名すれば、事は丸く収まるんじゃないですか?」

「西尾さんは、そういう事の出来るタイプではありません。己の立場を利用してとかを一番嫌う人ですから…澤村さんが生きていれば、澤村五代目、若杉六代目というレールで親栄会は動けたと思うんです。ですから、何とか若杉を直参に上げて、誰もが納得する形で西尾さんの後に繋げたいんです。それに、その頃になれば、澤村さんが跡目を譲るならお前だ、と名指していた滝本がムショから帰って来ます。神崎さん、これだけの事をすっかりお話ししたんです。いい返事をこの場でお聞かせ下さい。」

両手をつき、額がテーブルに触れる程、頭を下げた浅井の全身に、殺気とも思える位の気構えが見て取れた。

生半可な言葉で、この場を取り繕うような事をしたら、きっと浅井は、命を捨てるかも知れない。

「頭を上げて下さい。」

「どうか、お願いします。」

「判りました。俺の力がどう役に立つか知りませんが、そこ迄腹を割って話して頂いた以上、力になりましょう。」

「本当ですか?助かります。ありがとうございます。」

「もし自分がNOと言っていたら、刺し違えるおつもりだったんでしょ?」

「いや、それは……」

「いえ、いいんです。浅井さんのそういう気構えに負けたのも確かですが、実は、俺自身が河田という人間を余り好きじゃないみたいでして…」

「………。」

「何と無く、こちら側の人間という気がしないんです。つい最近、河田が尚武会の人間と、それに俺を襲った荘という中国人と会っていたようなんです。」

「初耳です。」

「きな臭い匂いがこっちに向かってるような気がします。」

「これはいい話しを聞かせて貰えました。その件は、うちの方でも詳しく調べてみます。」
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