凶漢−デスペラード
「それで、自分が浅井さんと手を組むという事を誰にも知られないようにした方がいいと思います。」

「判りました。」

二人は別々に喫茶店を出た。

竜治は、自分の事務所には戻らず、ヤンに会いに行った。

浅井との話しを伝える事と、河田達のその後の動きを教えて貰う為だ。

ヤンの店に行くと、従業員が暫く待っててくれと言った。

「ちょっと、てかけてる。すぐもとる言ってた。」

店の奥のテーブル席で、出された烏龍茶を飲みながら、ヤンの帰りを待つ事にした。

十五分…三十分…。

一時間近く待ってもヤンは帰って来ない。

店の者も何度かケータイで呼び出しているようだが、繋がらないようだ。

日を改めようかとも思ったが、竜治は何と無く不安を憶え、席を立てないでいた。

それから暫くして店の電話が鳴り、それを取った男が急に大声で喚き出した。

厨房から数人の男が顔色を変えて出て来た。

皆、緊張し殺気立っている。

竜治がどうしたと聞く前に、一人の男が口を開いた。

「かんさきさん、ヤン…しんた……」

「ん?どういう事なんだ?」

「さされた…」

竜治は、胃の腑がギュッと縮まり、胃液が逆流して来るような不快感に襲われた。

「けいさつから、ヤンのおくさんにてんわあった。おくさん、わたしたちに、いま、てんわくれた。みせ、しめる。ごめんなさいね。」

「判った。詳しい事が判ったら、すぐに連絡をくれ。特に、誰がやったかという事はな。」

「わかってます。かんさきさん、ヤンのたいせつなゆうじん、なにかわかったら、すぐてんわする。」

竜治が事務所に戻ると、既に刑事が来ていた。

強行班係りの永井と名乗ったその刑事は、二、三質問した後、竜治のこめかみの傷痕を見てこう言った。

「何ヶ月か前、楊の店の近くで発砲事件があったんだが、現場には夥しい血の跡がありながら、害者の姿が消えてしまった…中国人同士のいざこざらしいんだが、犯人も判って無いから、実際の所どうだか…楊の店の若い人間が血相を変えてそこら中駆け回ってるようだが…数カ月前の発砲事件の事、神崎さんは何か知らないかい?」

明らかに竜治にカマを掛けた物言いだ。

当然、竜治は惚けた。

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