凶漢−デスペラード
「刑事さん、その件とヤンが刺された事がどう関係あるんですか?」

「大ありも大あり…しかも目の前でしらぁっと惚けてる誰かさんも大いに関係ありそうなんだがな…」

「冗談は止しましょうよ。俺はそれ程の者じゃない。」

「まあ、そう謙遜しなさんな…マル暴の連中が皆あんたの事を噂してんだぜ。それは、それとしてだ…今日は神崎竜治という男の顔を見に来ただけだから、この辺で引き上げるよ…いずれゆっくり話しを聞かせて貰える日が来るだろうから。そん時は、あんた用に特別な取調室を用意して置くよ。」

そう言って永井は帰った。

ヤンを刺した男はその場ですぐに捕まった。

その男は、イスラエル国籍の売人だった。

警察の取調べでは、ジャンキー特有のラリッた状態で、まともに受け答えが出来なかった。

警察からすれば、裏に何かあるとは感ずいても実際には単なる売人崩れのジャンキーによる通り魔的犯行で片付けるしか無い状況になっている。

翌日の新聞に、そのような内容で記事が載っても、百軒店周辺の人間で、その記事を鵜呑みにする者は誰一人居なかった。

ヤンが死んでから数日後、ヤンの妻である晴美から電話が入った。

通夜の席で、簡単な挨拶はしていたが、竜治の方で慮り、話しらしい話しをしていなかった。

人気の少ない静かな場所で会いたいという彼女の希望で、横浜のホテルのラウンジで待ち合わせをする事にした。

平日の夕方のせいか、ラウンジには二、三人の客しか入ってなく、人目を気にするには、うってつけだ。

ヤンの妻は、竜治の姿を見るなり、先日の通夜の礼と、会う為に時間を割いてくれた事への謝辞を述べた。

「こういう場所を選ばれたという事は、他人に知られたくない話しなんですね?」

「ええ……」

一呼吸間を置いてから話し始めたその内容に、竜治は目を丸くした。

話しを聞き終えても、暫く言葉が出て来なかった。

「晴美さん、この事を知ってるのは?」

「私だけです。」

「絶対に、他の人間には喋らないで下さい。いいですね。」

「はい…」

話しを終えると、竜治と晴美は、ホテルを別々に出る事にした。
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