凶漢−デスペラード
山下公園を左手に見ながら、新山下町の方向に歩き、自分の車が停めてある駐車場に向かった。

歩いているうちに、竜治は自分の首筋に何とも言えないひんやりとしたものを感じた。

あの雨の日、中国人のヒットマンから二発の銃弾を受けて以来、人からの視線や、空気の動きといった微細な変化に敏感になっていた。

過敏過ぎる位に反応してしまう事が殆どだが、今は、何時も以上にはっきりと強く感じていた。

駐車場の前をわざと通り過ぎ、目の前のメルパルクホールに入った。一階のエレベーター前に、三人連れの女が居た。

竜治はその三人の後ろに着いて、一緒にエレベーターを待った。

男が一人、10メートル程後ろからついて来た。

更に5メートル程離れて、もう一人の男が続いた。

首筋に感じた違和感の主はどっちだろうか……

振り返らず、視線の端に後ろの男を捉えた。

オレンジ色のドレスシャツの襟元からシルバーのネックレスが見える。

背が高い。

ナチュラルにカールされた髪を短く刈り上げている。

東洋系とは明らかに違う。

中近東系の顔立ちだ。

その後ろの男は、はっきりと日本人と判る。

グレーのスーツを着、黒のブリーフケースを手にしている。

一見すると、何処でも見掛けそうなサラリーマン風だ。

注意は中近東系の男に向いた。

エレベーターの扉が開いた。

三人連れの女達と一緒に乗り込んだ。

竜治は、なかなか閉まらない扉に苛立ちを感じた。

オレンジ色のドレスシャツが飛び込んで来た。

瞬間、竜治は身構える姿勢を取った。

扉が閉まり、オレンジ色の背中が、竜治の目の前に来た。

三人連れが7階の最上階を押した。

オレンジ色は一つ手前の6階を押した。

10秒程で6階に着いた。

扉が開く。

オレンジ色が降りた。

7階はレストランになっていた。

三人連れと一緒に降りると、もう一台のエレベーターに、食事を終えてレストランから出て来た一組のカップルが乗ろうとしている所だった。

竜治は、扉が閉まる直前に乗り込んだ。

カップルが1階のボタンを押した。

エレベーターが動き出してから、竜治は2階のボタンを押した。

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