凶漢−デスペラード

8…激闘

2階のフロアには誰も居なかった。

非常口の常夜灯を見つけ、その扉を開けた。

階段を降りた。

1と大きく書かれた踊り場に立ち、扉のノブに手を掛けた時、竜治の頭の中で突然シグナルが黄色を点滅させ始めた。

非常階段を地下迄降り、B1の扉を開けると、そこは駐車場になっていた。

出口を捜す。

竜治のシャツは、すっかり汗で濡れている。

震えが来る程に、汗が冷たい。

出口のスロープを見つけ、竜治は駆け登った。

そのまま、中華街方向に向かおうとした時、ビルの角からグレーのスーツが踊り出て来た。

シグナルは黄色から赤に変わった。

男は、持っていたブリーフケースをいきなり竜治の膝に投げつけた。

膝頭に当たり、竜治はその場に崩れた。

10メートル先は表通りだ。

そこ迄行ければ人通りもある。

そこ迄とにかく逃げるんだ…

そう思いながらも、膝頭に当たった為に、痺れが来て、まともに立てない。

男は手にサバイバルナイフを持っていた。

男は無言でナイフを突き出した。

かろうじてかわした。

転がった拍子に、男が投げたブリーフケースを拾って手にしていた。

竜治はそれを楯にし、男と向かい合った。

今度は切り付けて来た。

ブリーフケースで受け止めた時、丁度メルパルクホールから出て来たOLが、目にした光景に驚き、悲鳴を上げた。

ほんの一瞬、男が怯んだ隙をついて、ブリーフケースで殴りつけた。

角がもろに当たり、ゴツンという鈍い音がし、男は鼻の辺りを押さえてうずくまった。

竜治がもう一度ブリーフケースを振り上げると、男は走るようにして逃げた。

それを見て、竜治も反対方向に走り、折よく停車していたタクシーに飛び乗った。

タクシーの中で、竜治は先ずさっき別れたばかりの晴美に電話した。

電車の中なのだろうか、電源が切られていた。

次に電話を掛けたのは、浅井のケータイであった。

「浅井さん、最近の白石組の動向って、詳しくわかりますか?」

(白石組ですか?池袋に本部のある白石組ですよね…何かあったんですか?)

勘の良い浅井は何かを察したようだ。
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