凶漢−デスペラード
「今タクシーの中なんで、詳しく説明出来ないんですが、とにかく今から西尾さんに会えるように段取りを付けてくれませんか?無理なら、若杉さんでも構いません。とにかく、早ければ早い程良い。」

(判りました。何とか早急に手配しますが、神崎さんは今どの辺ですか?)

「横浜から高速に乗って、もうすぐ都内に入るところです。」

(じゃあ、渋谷ではなく、西尾組の本部がある銀座に向かって下さい。そっちで会える段取りを付けて置きます。銀座に着いたら電話下さい。)

銀座なら、多少の渋滞に巻き込まれたとしても、一時間もあれば着ける。

竜治はこの話しをどう伝えようかと、思いを巡らせていた。

殺されたヤンが、自分に迫る危険を予感し、万が一の為に妻の晴美に託した伝言……

ヤンが殺された元凶がその伝言に隠されている。

そして、つい今しがた自分が襲われた事も、大きく関わっている。

白石組の名は、竜治も知っている。

戦前からの組織で、元はテキ屋だったが、今では他の組織同様、テキ屋一本では無く、様々な分野に手を広げている。

関東でも有数の広域暴力団として全国に名を知られている。

その勢力、構成員の数だけで言うと、親栄会より大きい。

現組長である関根体制になってから、積極的に他団体と盃外交をし、組織の近代化を図るようになって来た。

親栄会とは、戦後の混乱期から池袋、新宿辺りで抗争を繰り返して来てたが、現在は、関根組長と、親栄会三代目会長が五分の兄弟盃を交わしているという事もあり、表向きは友好団体という事になっている。

ちなみに、白石組と尚武会も、以前から友好関係にあり、互いの有力組長同士が兄弟盃を交わしている。

反尚武会色の強い関東にあって、唯一と言って良い友好団体であろう。

とてつもない大きな歯車に、ひょっとしたら自分は組み込まれたかも知れない。

瞬間、竜治はハッとし、急いで久美子に電話をした。

(はぁい。)

何時もの久美子の声音だった。

「特に変わった事は無いか?」

(どうしたの急に、何も変わりは無いけど…)

「別にたいした用では無いんだ。そうだ、たまに外で食事でもしよう。店に出る前に何処か静かな所で…」

竜治の心の中で沸き上がる不安が、色を濃くし始めていた。

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