凶漢−デスペラード
自分の不安感が久美子に伝わらないよう、努めて明るく、

「デートらしいデートなんてした事無いから、思い切り楽しもう。」

(おかしな竜治さん、じゃあ…私の店の近くでもいい?丁度行ってみたかったレストランがあるの。)

「判った。そうしよう。6時にもう一度電話するよ。」

竜治が銀座に着いたのは、4時を少しばかり回った頃だった。

浅井に電話をすると、東銀座に向かってくれと言われた。

歌舞伎座の近くに指定されたビルがあった。

一階がカフェになっている。

今風のオープンテラスになっていて、洒落た雰囲気の店だが、客は一組もいない。

タクシーを5、6メートルばかり先に止め、浅井に電話をすると、数人の若い屈強な男がビルから出て来た。

浅井が竜治の姿を認めると、若い男達を促して駆け寄って来た。

男達が竜治をガードするようにしてビルへと案内した。

そのビルの五階と六階が西尾組の本部であった。

六階の応接間に通され、そこで西尾と若杉に引き合わされた。

西尾とは、以前竜治の快気祝いの席で顔を合わせている。

前に会った時は、余り気付かなかったが、思いの外身体の小さな人で、場所が場所なら、とてもヤクザなどとは気付かれないだろう。

ロマンスグレーの髪をきちんと撫で付け、柔和な表情を見せている。

品の良いスーツ姿だ。

その横に座っているのが若杉だった。

隣の西尾の倍はあろうかという巨体、五分刈りの頭に鋭い眼差し、ギュッと強く引き結ばれた口許が、意志の強さを窺わせる。

浅井に促され、二人の正面に対座した。

「事が事なので、きちんとした挨拶もせずに申し訳ありませんが、ご了承下さい。」

「気にせんでくれ。」

西尾の言葉に頭を下げ、浅井の方を向いて、

「浅井さん、白石組と親栄会の関係は現時点ではどうなんですか?」

「うちとは盃を交わしてますから、一応友好的には接していますが、実際にはこの所トラブルが続いています。」

「尚武会が、白石組を取り込もうとして接近している話しはご存知ですか?」

「尚武会が白石組を?」

浅井ではなく、若杉が口を開いた。

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