凶漢−デスペラード
「神崎さん、その話しは何処から?」

竜治は昼間、晴美と横浜で会い、聞いた話しをそのまま伝えた。

「尚武会の東京進出は何年も前からの悲願だそうですが、これ迄ずっと、親栄会が中心となって関東一円の組織をまとめ、それを阻止し続けて来た。奴らは一枚岩だった関東の組織を切り崩しに掛かって来たんです。殺されたヤンは、その事実を知ったが為に命を落とす羽目になったんです。きっかけは、ヤンの手下が河田と尚武会の金田、そして荘という中国人、更に古森さんまで加わった顔触れで一緒になってる所を目撃した事が始まりです。自分は最初、ヤンからこの件を聞いた時、親栄会の総意で、河田と古森さんが動いていたんだと思いました。ヤンはそうは思わず、その後もいろいろ情報を集める為に、自分の手下やコネを使って調べてたようです。そして判った事が、白石組が尚武会の下に入り直参になるという話しでした。」

「ちょっと待ってくれ。うちの三代目と関根組長は五分の兄弟なんだぜ。うちが尚武会とは絶対手を結べない事を重々承知してる筈なのに、どうして白石組が尚武会の下になるって言うんだ?単なる兄弟盃とかの間違いじゃねえのか?」

「関根組長引退、常任理事の山中が跡を継ぎ、そうして尚武会の会長から親子の盃を受け、直参になります。山中の尚武会に於けるポストは最高顧問…」

「おい、おい、山中は確かに白石組の中でもそれなりに力を付けているが、若頭の三枝がNO,2として居る限り、そうは行かないだろう。」

「その通りです。山中は、舎弟頭の渡部を担ぎ出して大多数をまとめ、組が割れても構わないという意志で事を進めています。ただ、この事は各方面に大きな影響が出、話しが壊れる恐れもあるので、極秘に推し進められています。実は、これにもう一枚噛んでいるのが…」

「うちの河田か?」

西尾が竜治に聞いた。若杉と浅井もそうなのか、という表情で竜治の答えを待っている。

「蒔田です。」

「何?」

「河田は蒔田の意向で動いています。蒔田は腹の中では既に親栄会の跡目を西尾さんから譲られている気でいるんです。」

「神崎さん!」

若杉が鋭い声を張り上げた。
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