凶漢−デスペラード
「今この場でそんな体裁を気にした考え方を持ち出すってのはどんなもんすかね、親栄会の存続に関わる大事な時に部外者だの口の聞き方だのって体裁言ってる場合じゃないでしょ。俺はこの浅井さんから、若杉さんはいずれ親栄会の頭を張る人だからと聞かされましたが、これだけの組織の頭を張る器の人の言葉じゃ無いですよ。」

若杉は顔面を真っ赤にし、眼を大きく見開き、拳をテーブルに打ち付けた。

「てめえ、口の聞き方に気を付けろって言ってんだよ!己の立場をわきまえろって言ってんのがわかんねえのか!」

「若杉!いい加減にせい!」

西尾が怒鳴ると咳が出て、胸を押さえた。

心配そうに背中をさすり、浅井が水を持って来いと若い者に怒鳴るのを制しながら、

「神崎さん、ご覧の通りの身体なんだ。本当ならば、今この場で西尾組を若杉に譲り、私は楽をしたい所ですが、三代目からのたっての望みで親栄会を纏めなきゃならねえ……私がこんな身体だから、蒔田や河田のような人間が頭を持ち上げ出す…」

「オヤジ、それは違う!」

「そうですよ!」

「いいから聞け……神崎さんは死んだ澤村が目を掛けた人だ。あの澤村がだぞ……何時だったか、私に澤村がこんな事を話した。今、うちに一人面白い人間が居るんだが、でも自分はこの人間には盃を下ろさない、ヤクザというしがらみに縛り付けたら、そいつは面白みが無くなる…群れの中に入れたら死んじまう…そう話したんだ。」

竜治の胸の中に澤村の顔が浮かび、そして何故かヤンの顔も一緒に浮かんだ。

(神崎さん、貴方は狼になれる人だ……)

ヤンが言ってた事と同じ事を澤村は自分に感じてくれてた。

「澤村が死んで、世間では私がいずれ蒔田に跡目をなどと言う憶測が流れてるようだが、今の今迄、私自身からは一遍もそのような話しはした事はありません。それは若杉がよく知っています。それに、浅井にわざわざ渋谷に縄張を持たせたのは、この私ですよ。澤村が命を削ってまで大きくした渋谷の縄張をあんな河田辺りのデクに全部任す気はさらさらありません。いずれ、澤村の所の滝本が帰って来ますが、ちゃんと帰って来る場所を作って置いてやらねえと、死んだ澤村に化けて出て来られますから。尤も、こんな事は蒔田がもう少しきちんとして腰が座ってりゃあ、どうって事無かったんだ……」
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