凶漢−デスペラード
「西尾さん、分をわきまえず失礼な事を言いました。本当にすみません。今の言葉で本心を教えて頂きました。若杉さんにもこの通り……」

と言って、竜治はソファから床へ座り直し、土下座した。

西尾も若杉も、逆に恐縮してしまう位で、浅井がとにかく今後の対応を考えて置きましょうと、場を執り成した。

結論としては、既にヤンが殺され、竜治も狙われた以上、相手側は、自分達の行動がこちら側に知られていると感ずき、一気に実力行使に出る可能性が強くなる。

そうでなくとも、かなり腹は括ってる筈だから、こちらもそのように対処すべきだと若杉が言った。

「余りあからさまに警戒しては、妙な勘繰りを受け、逆の結果を引き出してしまう恐れもあります。目立たないよう、それでいて、万が一を考えて各自が充分気を付け、年内に予定されている西尾組長の代目継承式迄は、こちらからは動かずという事で…」

話しが終わり、浅井が竜治を送ろうと言って一緒に西尾組の事務所を出た。

浅井と竜治は、車の後部座席西尾並んで座り、渋谷迄戻る間、一言も言葉を交わさず押し黙っていた。

二人の想いは同じだった。

それは、これから訪れる戦いが、予想出来ない方へと向かって行きそうな不安を感じていたからだ。

渋谷の街並みに車が入った。

途中、路上で中近東系の男を多く見た。

「そういえば、池袋で売人をやってるイスラエル人やイラン人のケツ持ちは、白石組なんです。」

「……」

「ヤンを殺した男もイスラエル人でしたよね…」

ジグゾーパズルのピースが一つ一つ嵌まって行く感じがした。

晴美の事を思い出し、竜治は車の中から電話を入れた。

今度はすぐに出た。

無事を確認した竜治は、用心の為に身辺に気を付けるように言い、何か変わった事があれば何時でも連絡をくれるようにと言った。

(神崎さん、私の事よりもご自分の方が…)

寧ろ心配された。

竜治の事務所があるビルの近くで浅井と別れた。

顔を出すと、事務を任せている佐伯が強張った表情をしながら、

「河田さんが来てます…」

と言った。
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