凶漢−デスペラード
そう言って立ち上がった河田は、二人の金髪を促し、封筒に入ったチケットの束をテーブルに投げ付けた。

「最初から素直に判りましたって言ってりゃあ500で勘弁してやったものを、損な性格だよな。1000枚置いて行くから、明日迄金持って来い。」

河田が出て行った後、封筒の中を見ると、一千万円と書かれた領収書が入っていた。

束になってるチケットを見ると、一枚一万円とある。

バカヤロー…初めから1000枚押し付ける気だったんじゃねえか。
暴力と金の両面で攻めてきやがった……

竜治は直ぐさま浅井にこの事を電話しようとしたが、思い止まった。

これを利用して奴らを嵌めてやろう……

そう考えたのである。

時計を見たら既に6時を回っていた。

慌てて久美子に電話した。

(忙しいんじゃないの?)

「大丈夫だよ。」

一緒になってからも、それ以前も、二人だけで外食というのは無かった。

そのせいか、久美子の声が心無しか弾んでいる。

30分後、久美子とイタリアンレストランで食事をしていたが、竜治の心の中は、様々な事を考えていた。

その事を久美子に悟られないよう用心した。

久美子とのひと時は、まるで戦士がつかの間の休息をしているかの思いを抱かせた。

翌日、竜治は一千万の現金を持って、河田の事務所に向かった。

竜治が金を出すと、

「流石、神崎さんだよ。こうやって金をちゃんと作って来る。昨日の今日にも関わらずにな。」

爬虫類のような眼差しを竜治に向け、ほくそ笑んだ。

澤村が生きてた頃の河田とは、まるで違う別人がそこに居た。

河田の事務所を出ると竜治は円山町のクラブ街に向かった。

殆どのクラブは夕方からのオープンだ。

店によっては、たまに昼間にもイベントで貸し切りになる事がある。

路上では若い男女がグループになり、ラジカセから流れる音楽に合わせて踊っている。

何処かのクラブでイベントでもあるのか、何十人かの行列が出来ていた。

エニグマに行ってみると、既に何人かの従業員が来ていた。

竜治は河田から回されたチケットのイベントについて何か情報を聞き出せないかと彼等に近付いた。

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