凶漢−デスペラード
店の中に入って来た竜治を見て、何人かが頭を下げた。

久し振りだ。

前の店長は、竜治が自分のカジノに引き抜いたから、今の店長は余り知らない。

それでも、竜治の事を話しには聞いているから、呼び出すと、奥から直ぐに飛んで来た。

以前、何度も足を運んだVIPルームへ案内された。

席に着くと、河田から回されたチケットを一枚取り出し、店長に見せた。

「このイベントなんだが、普通のイベントじゃ無いんだろう?」

「判りますか?」

「一万なんて金額ついてりゃ、少しは勘繰りたくもなる。」

「神崎さんだから話しますが、これ、ヤクの売がメインのイベントなんす。正直言って、有難迷惑なんすよ。ここんとこ、いろいろとサツが煩いですから…まあ、それでもたまにぶっ飛ぶには面白いかも知れませんけどね…神崎さんも来ますか?間違い無く女は入れ食いっすよ。」

適当にやり過ごし、他に何か情報を得られないかと探った。

判った事は、せいぜい入って300のキャパのイベントなのに、回ってるチケットは全部5000枚近いという事。

エニグマの向かい側には、クレージービートとマジックというクラブが並んでいる。

この二つが、昔から渋谷を代表する店で、キャパ的にもエニグマの倍近くある。

竜治はクレージービートに入った。

応対したスタッフに来意の目的を告げ、オーナーと会いたいのでアポを取ってくれと言って自分の名刺を渡した。

同じようにマジックにも行き、アポを取った。

そして浅井に電話をし、河田の件を伝えた。

竜治は、神宮前のファミレスで浅井と会う事にした。

横浜での事があったので、尾行が無いか、念入りにチェックし、タクシーを二度乗り換え、浅井と合流した。

浅井は、自分の若い衆を二人、隣の席に座らせていた。

竜治が浅井の前に腰を下ろすと、挨拶もそこそこに話しを始めた。

「一千万とは随分と吹っ掛けて来ましたね。」

「奴にしてみれば、金がどうこうよりも、どうにかして俺のあらを見つけたいんだと思うんです。金を作れなかったり、何か下手を打ったら、そこから手を突っ込んで引っ掻き回す事が目的だったんじゃないですか。」


< 145 / 169 >

この作品をシェア

pagetop