凶漢−デスペラード
そう話した竜治にスタッフの一人が、

「パクられないよう俺達で上手くガードすればいいんですね。」

そう言うと、

「いや、何もしなくていい。寧ろジャンキー達がパクられるようにしてくれたら助かる。勿論、売人達もだ。ヘビィなジャンキー以外は、上手い具合に帰せ。それと、一番肝心な事だが、俺の名前はどんな事があっても出すな。今日此処で会った事も全て忘れるんだ。」

「判ってますよ。サツには一切言いませんから。」

「サツだけじゃない。親栄会にもだ。黙っていたら、これからも良い事があるが、もし、俺の名前がサツや親栄会に少しでも出たら……」

釘を刺しても刺し足りない思いがしたが、事は順調に進んだ。

当日、昼過ぎから東急ブンカ村の前の坂道は、若者達で溢れかえり、車が通れ無い程だった。

エニグマのイベントは夜の7時からだったが、マジックとクレージービートの方は、昼の3時過ぎから既に始まっていた。

道沿いに並ぶ若者達を挑発するかのように、殆どトップレス状態のようなダンサーが、それこそサンバカーニバルを思わせるダンスで盛り上げていた。

初めは、浅井が手配した若い男達がサクラになって煽っていたが、夕方近くなると、それが必要無い程に野次馬が集まって来た。

何十人という若い女が、半分尻を出したような格好で踊り歩き、それに釣られた男達がハメルーンの笛吹きのようにマジックとクレージービートに吸い込まれて行く。

夜の7時になると、最高潮を迎え、店内に入り切らない若者同士が、ヒートアップした己の熱を爆発させ合っていた。

エニグマに来る筈であった客も、かなりマジックとクレージービートに流れて来た。

ホテル街を目指すカップルとトラブルが起きたのがきっかけで、パトカーが出た。

それを見計らうかのように、エニグマの店内で突如乱闘が始まった。

10分もしないうちに外の連中に飛び火し、さながら暴動状態になった。

応援に駆け付けた警察官に取り押さえられ、抵抗し暴れ回る者、パトカーを数人で揺すり、ひっくり返す者達。
血を流し、倒れ込む男の横で泣き叫ぶ少女。

何人もの逮捕者が出、怪我人を運ぶ救急車のサイレンの音が夜空に鳴り響いた頃には、蜘蛛の子を散らすように人の姿が消えていた。
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