凶漢−デスペラード
この夜の暴動騒ぎには、不思議な事に妙な規則正しさがあった。

暴動の発端の全てが、竜治の仕組んだ事だと知っている人間は、ごく僅かしか居なかった。

この夜のイベントで一儲けをと目論んでいた河田にも、それは判らなかった。

儲け損なった河田は、多少は気を落としていたが、竜治から一千万という大金をチケット代としてせしめていたので、損はしていなかった。

この日のイベントの為に仕入れて置いたドラッグや大麻、シャブは追い追い捌けばいい。

そう思っていた。

しかし、翌日、河田の事務所にエニグマから損害賠償の請求が来た時には、どういう事だと喚き散らしていた。

店内の照明機材やら内装等、壊された被害額が、二千万を越す金額になっていた。

河田はこれを握り潰すつもりでいた。

それが、意外な所から横槍が入ったのである。

西尾と古森だ。

予め、竜治と話し合っていた浅井が、最後の詰めを用意して置いたのである。

こうなると、河田も支払いに応じるしかなかった。

拒否すれば、警察は勿論、裁判にまで持ち込むと言われ、組のトップと堅気とはいえ、今だに親栄会に影響力があり、所轄警察にも顔の利く古森に出て来られては致し方無かった。

渋々、河田は被害弁済に応じた。

河田にとって納得の行かなかった点は、古森が出て来た事である。

西尾は仕方無いとしても、何故古森が…という気持ちがあった。

少なくとも、今、内密に進めている自分の計画に多少は関係がある人間であるのに…といった思いがあった。

エニグマからかなりの金が行ってるのだろう…

確かに金は渡っていた。

しかし、それはエニグマからでは無く、竜治から出た金であった。

古森自身、実はその事を知らない。

本人も、エニグマに河田から支払われる賠償額の一部から出た金だと思っていた。

河田が支払った二千万の皺寄せが直ぐに現れた。

カスリを取っていた連中に、別な取り立てをしたのである。

名目は、様々な形にした。

天然水やら、浄水器、はては、健康食品に偽ブランド品。

とにかく、二束三文の物を数万の値で無理矢理買わせた。

河田が少しずつ、竜治の仕掛けた罠に掛かって行った。
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