凶漢−デスペラード
河田の破門に関しては、意外にも蒔田が話しを推し進めた。

ただ、そう焚きつけたのは、浅井であり、西尾であった。

蒔田は、河田と一蓮托生になってしまえば、自分のヤクザキャリアに汚点が付き、上がりが望めなくなると考えたのである。

河田が蒔田の元を血相変えて訪れたのは、破門状が出されたその日であった。

「オジさん、これはどういう事ですか?俺はあんたを神輿にして、今日の今日迄担いで来たんですぜ。尚武会との件だって、あんたを将来の五代目にする為の事だったんですよ。恐らく、浅井か若杉辺りの若造にケツ掻かれ、よっぽどいい鼻薬でもかがされたんでしょうが、担ぎ手の居なくなった神輿なんざ、ただの邪魔物にしかならねえだぜ。」

「河田、てめえ少し口が過ぎねえか、破門はてめえの身から出た錆じゃねえか。俺は取り込む人間を間違えたよ。よくよく考えてみりゃ、俺に見る目が無かったって事だが、澤村が神崎って若造をどうしてお前さんより重宝してたか、漸く判ったよ。」

「神崎?どういう事ですか?」

「お前もやり手だ切れ者だと評判になっていたが、浅井や若杉程度の小僧っ子が、西尾の頭をあれだけ使いこなせる訳がねえだろう。神崎なんだよ。今、頭とこに毎月幾ら納めてるか知ってるか?カジノの売上そっくりだぞ。あの年であれだけ金に綺麗な奴はいねえって、三輪田の兄貴迄孫みたいな若造をヨイショしてんだ。ヤクザの看板背負ってなくとも俺達以上に上に可愛がられてんだ。負けたんだよ。神崎にな。」

「冗談じゃねえ、元はただの売人風情に足元を掬われたまま、黙ってられる程、俺はお人よしじゃねえぞ!蒔田のオッサン、状が回ったからにはあんたともチャカ向け合う間になっちまうが、鉛の玉、そのだらしねえ腹にぶち込まれる前に、早いとこ堅気になっちまった方が身の為だぜ!」

「おう、その台詞、そっくりてめえにくれてやる。的に掛けるんなら遠慮はいらねえぞ、今直ぐここで弾いてみろ!」

「朦朧した神輿がほざくな!どうせあんたには五代目の目は無かったんだ。多少の義理は感じてやっから、あんたの腹にチャカ向けるのは、この次にしてやるよ!」

「河田っ!」

事務所に居た者達は、茫然と二人のやり取りを聞いてるだけだった。

河田が事務所のドアを思い切り閉めた。

そのドアに蒔田が灰皿を投げた。
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