凶漢−デスペラード
河田の頭の中には、竜治への怒りだけで詰まっていた。

蒔田のイモヒキ爺め……
それもこれも神崎が裏で手を回してたって訳だ……
やっぱり、ヤンとつるんで俺達の事に感づいたんだな……
こうなる前にきっちり奴を仕留めとけばよかったんだ……

やる事全てが裏目に出ていたこの所のツキの無さは、全て竜治が元であると理解した河田は、その怒りをどうぶつけるかしか頭に浮かばなかった。

既に常人の状態では無かった。

河田の破門が正式に全国の組織に通達されてから数日後、日本の暴力社会を揺るがす衝撃が走った。

関東有数の暴力団、白石組が尚武会の傘下に入ったのである。

白石組組長である関根が引退し、その跡目に座った山中が尚武会の直参になったのである。

東京に、尚武会の代紋が掲げられたのである。

反尚武会で一枚岩だと思われていた関東の他組織の動揺は計り知れ無かった。

が、下部組織の若者達は違う見方をした。

のし上がれるチャンス……

暴力でしか己の存在価値を見せられない者は、何時の時代でも居る。

数日もしないうちに、白石組の本部がある池袋で銃撃事件が起きた。

親栄会が、白石組との抗争には関与しないよう、下部団体に通達したが、現実にはさほど効力は無かった。

渋谷では、河田が破門になった事で、導火線に火が点けられた。

河田が尚武会の金田の元に走ったのである。

渋谷の街から出て行かなければならない身でありながら、本人は自分が引き連れた子分達と共に、反親栄会の旗を上げたのである。

尚武会は、破門された河田を直ぐには直参には迎えなかったが、事実上は河田組に連日関西から人間を送り込んで行ったのである。

親栄会側も、この件に関しては、黙って指をくわえたままでいる訳には行かなかった。

浅井の元に、どんどん人間を送った。

センター街や道玄坂の路上で小競り合いが起こった。

警察は、直ぐさま警戒体制を敷き、抗争事件に発展しないよう厳重にパトロール等を強化したが、血に飢えた狼達は既に野に放たれていた。

最初の犠牲者は蒔田であった。

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