凶漢−デスペラード
竜治は直ぐさまヤンの元手下の一人に電話した。

「時間が無いんだ、とにかくすぐ手に入れてくれ。言っとくが、おたくらの国で造ったトカレフのコピーだけは止めてくれ。値は張っても構わないから、まともなやつを頼む。」

(いっちょうですか?)

「出来れは二丁…」

(いっちょう、すぐ、にちょう、じかんかかる。)

「判った、一丁でいい。その代わり、予備の弾丸を余分につけてくれ。」

(わかった、それならたいちょうぷ。すぐわたせる。)

10分後、竜治はヤンの手下から買った西ドイツ製のオートマチック拳銃を腰に差し、車を飛ばしていた。

20分位して、浅井から電話が入った。

竜治は、簡単に河田とのやり取りを説明した。

(神崎さん、それは罠だ。一人で行くのは危ない…)

「判ってます…心配して頂いてありがたいんですが、久美子が…久美子が待ってるんで…」

(とにかく、こっちも人数揃えて後を追っ掛けますから、決して早まらないで下さい…)

竜治は、それには返事をせず電話を切った。

罠なら罠で構わない…河田の側に一歩でも近付ければ……

運転している竜治の眼には、周囲の景色など一切入らなかった。

真っ直ぐ前だけを見つめていた。

その視線の先には、河田の狂気の眼があるのみだった。

そして、時折、ビデオの中の久美子が浮かんだ。

夢であってくれ……

人違いであってくれ……

そう思いたかったが、息も絶え絶えとなりながら自分の名前を呼んだ久美子の声が、紛れも無い事実なんだと思い知るのである。

横断歩道を渡る女性が、何度も久美子と重なる。

思えば丁度一年前、ジュリを失った。

次に澤村を失った。

久美子は失ってはならない。

どんな姿になっていようと……

例え、両手両足を失っていようとも、命さえあれば……

そう願っていた。



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