凶漢−デスペラード
「てめえに必要なのは霊柩車なんだよ……」

弾丸は男の顔面に命中し、ドアのガラスに脳の中身をぶちまけた。

銃声で何か変化は無いか、目を凝らして見たが、外見からでは判らなかった。

オートマチックの残りの弾丸を調べた。

薬室に一発、マガジンに七発。

奪った銃は中国製のマカロフ。

確かあの男が引き金を引いた時は弾丸が出なかった。

セーフティーが掛かってるかと思ったら、そんなものは付いてなかった。

粗悪品だ。

その銃は捨てた。

ポケットから予備のマガジンを取り出し、交換した。

喉がひりつき、異様に渇いている。

真冬だというのに、竜治は全身に汗をかいていた。

シャツの胸ポケットから煙草を出し、火を点けた。

焦るな……

落ち着くんだ……

煙草の煙りを深く吸い込む。

くわえ煙草のまま、竜治はゆっくりと廃屋に近付いた。

家の裏側が小さな空き地になっている。

玄関は細い砂利道に面している。

竜治は、裏の空き地に回った。

肩位のブロック塀があった。

塀越しに様子を見ると、裏庭に面した部屋の雨戸が、ほんの僅かだけ開いていた。

そこから光りが漏れている。

人が居る……

久美子……

ブロック塀を乗り越え、そっと雨戸に近付いた。

入り込めそうになかった。

中からは、人が居る気配が微かにする。

音を立てずに辺りをもう一度見回す。

便所の下窓が壊れ掛かっているのを見つけた。

そっと近付く。

土を踏む音、草を踏む音が、河田の耳に聞こえてないだろうか……

自分の心臓の音でさえ聞こえてしまってる位に思えた。

便所の下窓を外すと、何とか入り込めそうだった。

ゆっくりと慎重に身体を中に入れて行く。

恐ろしい程に時間が長く感じられた。

和式の便器が邪魔で、手間が掛かった。

やっと中に入れた。

呼吸を止め、様子を伺う。

気配は感じられない。

もう一度、神経を集中させた。
物音一つしない。

竜治は意を決した。

オートマチックを両手で握り直し、便所の戸を開けた。

目の前は台所だった。

コンビニの袋が散乱している。

女の声が聞こえた…

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