凶漢−デスペラード
半開きの襖の向こうからだ。

襖を蹴倒し、その部屋に入ると、全裸のまま手足を縛られた久美子が無残な姿て転がっていた。

「久美子!」

近寄ろうとした瞬間、押し入れの中から河田が銃を撃って来た。

パン、パン、パン、と連続音がし、流れ弾丸が部屋の壁や戸を撃ち抜いた。

互いが引き金を引き続けた。

数秒で銃声は途絶えた。

弾丸を撃ち尽くしたのは、ほぼ同時だった。

弾丸が無くなっても、竜治は引き金を何度も引いていた。

鈍い金属音だけがした。

押し入れの中で河田はぐったりとしている。

ピクリとも動かない。

久美子の姿を見た。

死んでいるのか?

口に手を当てると、微かに息をしていた。

竜治は手足を縛っている紐を解こうとした。

なかなか思うように解けない。

指に力が入らなくなっていた。

自分の足元に、血が溜まりを作っている。

痛みは無いが、多分何処か撃たれてるのだろう。

何とか紐を解いた。

「久美子!俺だ!もう大丈夫だ…迎えに来たから…」

銃声で耳が聞こえなくなっているのか、自分の声すら遠くで聞こえてる感じがする。

意識を失ったままの久美子を竜治は抱きしめた。

身体中に痣が出来、どす黒く変色していた。

所々、血が固まりこびり付いている。

顔は、美しかった面立ちを失い、腫れ上がり傷だらけになっていた。

竜治は自分の着ていたジャケットを久美子に掛け、他に何か着せる物は無いかと見回した。

と、その時、背中に刺すような痛みを感じた。

反射的に振り向きながら、自分に覆い被さって来る者を組み伏せようとした。

10センチと離れていない目の前に、血塗られた悪魔が居た。

頭から血を滴らせ、悪鬼の形相で組み付いて来たのは、紛れも無く河田であった。

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