凶漢−デスペラード
ジュリは久し振りに安らいだ気分で夢を見た。

まだ、自分が幸せだと思えていた頃……

左手首にまだ傷が無かった頃……

父親によく抱かれて寝る子だった。
抱かれると、いろんな匂いがした。
煙草の匂い…
酒の匂い…
汗の匂い…

それらが混ざった匂いが、ジュリには何だか温もりのように思えた。
自分のおでこ辺りに当たる父親の不精髭…

不思議と同じ感覚がジュリの心の中で湧いていた。

実の父がガンで他界したのは、ジュリが11歳になったばかりの夏だった。

一年もせず、母は再婚相手を見つけた。
相手には高校生になる息子がいた。
元来、人見知りのしない質のジュリだったから、新しい家族にもすぐに打ち解けた。
寧ろ、兄が出来た事を無邪気に喜んだ。
幸せは続いていた……筈だった。

十二歳の冬迄は………


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