凶漢−デスペラード
引きずられるようにしてベットに運ばれ、その後は、自分がただ泣き叫んでいた事だけが鮮明に記憶されている。

肉体的激痛よりも、精神的苦痛の方が大きかった。

翌日、風呂場で手首を切った。

浅かったから、出血の割には気を失う事も無く、結局この時は家族の誰にもこの事を気付かれなかった。

その後、何も言わないジュリを見て味をしめたのか、両親が居なくなるとジュリの身体を求めて来た。

抵抗すると、暴力を振るわれた。
顔だけは殴られなかったから、親はまるっきり気付かない。
仲が良い義兄妹だと思われていたから尚更だ。

二度目に手首を切ったのは、義兄に玩ばれていた最中であった。

ポケットに隠し持っていたカッターナイフで一気に左手首を切った。

噴水のように吹き上がる血に義兄は動転し、部屋を飛び出した後、階段から転げ落ちた。

不思議と、手首に痛みを感じなかった。
寧ろ、すうっと眠りに落ちて行く心地良さを感じた。

義兄が呼んだのか、救急車で近くの病院に運ばれた。

脱がされていた筈の下着は、ちゃんと着けられていた。

手首を切った理由をジュリは誰にも言わなかった。だが、流石に、母も何かを感づいた。

退院すると、ジュリは程無く祖母の家に預けられた。

三本目の傷は、祖母の所へ移って間も無くの頃に付けられた。

切った理由は特に無かった。
強いて理由を付けるとすれば、母から見捨てられたと思ったから……

中学の半分以上を不登校で過ごし、祖母も匙を投げたのか、何も言わなくなり、それを良い事に好き勝手をした。
十四位から、渋谷や歌舞伎町の繁華街で、ジュリの姿を見かけるようになった。

同じ家出仲間と、ナンパされた男の部屋を泊まり歩き、援交で金を得た。

幼い顔立ちを大人っぽい雰囲気にする為、何時も厚化粧をした。

左手首の傷を目立たないようにする為に、手首にファンデーションで隠したりもしたが、最近は余りしなくなった。

時折、義兄に初めて犯された時の夢を見る。

その夢を見終わった後は、決まって傷がピリッと引き攣る。

十二の歳からこの方、安眠とは無縁だったジュリに、竜治の温もりと匂いは、何故か安息を感じさせてくれた。

もう、あの夢は暫く見なくてすみそうな気持ちがした…

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