凶漢−デスペラード
それから一週間ばかりは、また何時ものように時間が過ぎて行った。

その情報は渋谷署のマル暴の刑事から知った。

丁度、竜治が店に顔を出すと、強面風の男が二人来ていた。

二人の身体から発せられる匂いは、明らかに暴力の匂いだが、ヤクザ達とは微妙に違うものだ。

マル暴…暴力団担当の部署の俗称だが、ある種の蔑んだ響きが入っている。

「おう、やっと主役のお出ましか。神崎竜治…澤村もなかなかの玉を見つけて来たもんだ。」

「どちら様ですか?」

「渋谷署のもんだよ。」

「見た感じ、生安(生活安全課…風俗関係の許認可や取締を担当している部署)の方とは思えないんですが…」

「ああ、その通りだ。今日はプライベートでふらっと立ち寄っただけだから、手帳は出さないよ。こいつを出す時は、お前さんの手にワッパをはめに来た時だ。」

「そんな御大層な。」

竜治は作り笑いを浮かべながら、相手の様子をみた。

「神崎竜治…29歳、殺人と傷害で8年の刑を務め上げる…か。この店、随分流行ってるらしいじゃないか。これを足場にヤクザデビューか?それとも面向き堅気を装って、澤村の企業舎弟か…ま、いずれにしても、うちらはこの方面は管轄外だから店が流行ろうが潰れようが興味は無いんだが、あんた個人には少しばかり興味があってね。」

「………」

「…未成年、使ってんだろ?まだ、生安の間抜け達は気付いてねえが、どういうわけか、部署違いの俺んとこにはそういう情報が持ち込まれててね……」

「………」

「…心配すんな。そんなチンケな罪名で札取ったりしないよ。お前さんクラスだったらもう少し勲章付けて貰ってからじゃないと勿体ないからな。」

「たれ込みの元は同業ですか?」

「同業なら真っ直ぐ生安さ…それはそうと、田代とはもう仕事してないのか?」

「………」

「…オフレコで俺も話してんだ。気楽になれよ。」

「私服相手に気楽になれる程、大物じゃないもんで…」

「まあ、いいや。今日は様子見で来たみたいなもんだからな。生安の方、気を付けとけよ。噂になりだすと、広まるのはあっという間だ。」

刑事はそう言って帰ろうとした。

「お茶の一杯も出さずに済みません。」

「いいよ。収賄で解雇にはなりたかねえからな。」
< 32 / 169 >

この作品をシェア

pagetop