凶漢−デスペラード
「茶ぐらいで収賄とは…」

思わず互いに笑ってしまった。

刑事とヤクザの手先……

決して交わるはずの無い人間だが、関わりは避けて通れない者同士……。

「最後に聞きたいんですけど、たれ込んだ奴って?」

「おい、おい、これでも俺は刑事だぜ。一応守秘義務てものがある。それでも、口の軽い俺の事だから、うっかり話しのついでにそいつの名前をぽつりと漏らしてるかも知れない。それをどう受け取るかは自由だけどな。」

意味深な物言いをする刑事だ。

「俺みたいな若造に随分と肩入れしますね。」

「……澤村にゃあ随分と世話んなってるからな…じゃあ。あっ、最後に言って置くが、事が起きて、お前さんだと判ったら、俺がワッパを掛けに来るからな。」

「ええ、その時には何時でも…」

意味深な言葉の中に、はっきりと田代の顔が見えた。

あの野郎……

自分の頭を越された事に対する腹いせ……

ガキみたいな喧嘩しか出来ない男だ……

竜治は腹の中で渦巻く怒りをどうにか沈めた。

その夜、エニグマに寄ってみた。

行くと、マネージャーが側に来て、

「田代さんが来てますよ。」

と耳打ちした。

「誰と一緒だ?」

「余り見掛け無い人間です。ヤクザもんでしょうが、親栄会の方じゃなさそうですよ…」

「……ありがとう。今度、うちに電話しなよ。飛び切りの女を抱かしてやるから。」

「本当っすか。」

「ああ、これからも仲良く頼むよ。」

「勿論っす!」

田代達に判らないように、離れた席を用意して貰った。

遠目に田代達の様子を伺った。

無用心な奴だぜ…

一緒に居る男は、この前、竜治を殴った金田組の若い男だ。

自分が全部仕組みましたって言ってるようなもんじゃねえか…

所詮、ただのポン中だな……

竜治は、以外と冷静に田代の姿を見つめていた。
が、怒りは身体の中で不気味に燻っている。

廃除しなけりゃならない物は、きれいに処理しなければ……

何時しか燻った怒りは赤い炎の色合いを見せ始めた。
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