凶漢−デスペラード

5…おんな

円山町を下り、ドンキへ寄って服を買い、松濤町を抜けて鍋島公園に入った。

公園内のトイレに入り、買って来た服に着替えた。

ドンキの袋に、それ迄着ていた物と、田代のケータイを入れ、僅かに血の付いた鉄筋を重し代わりにして袋に括り付けた。

公園の中央にある池に、その袋を投げ捨て、完全に沈むのを確認してから、竜治は公園を出た。

まだ身体に興奮が残っている。

煙草に火を点け、二、三服深く吸い込んだ。

いつの間にか、センター街に出ていた。
キャバクラのキャッチが声を掛けて来る。

「これで飲ませてくれ。」

田代の財布から抜いた金をそっくり渡した。
キャッチは、突然の事でびっくりしている。

「駄目か?」

「と、とんでもないです!大歓迎です。すぐ店に電話します!」

キャッチは慌てて、ケータイを取り出し、

「御新規一名様ご案内します!あっ、VIPでお願いします!」

たかだか十万位なのに、新規でいきなりVIP扱いとは、それ程流行ってないのだろう。

汚れた金だ…馬鹿騒ぎして使っちまった方が金も喜ぶ……

竜治はそんなふうに考えた。

案の定、店内には、一組しか先客が居なかった。

「長居するつもりはないから、とにかくパアーッと騒いでくれ。渡した金で足りなくなっても構わないから。」

キャッチから報告を受けていた店長は、久々の上客に飛び切りの愛想を振り撒いていた。

オープン以来、開けた事がなく、殆ど飾りでしかなかったドンペリの栓が抜かれた。
女達は、我先に自分を売り込もうと、竜治に擦り寄って来る。

「すいません、今度はピンクをちゃんと用意して置きますから。」

卑屈気な態度で、店長が頭を下げる。

心配すんな…次は無いから……

竜治は腹の中で呟いた。

小一時間程で店を出た。

酔いが一気に来た。

ふらつく足をひたすら前に進めて行くうちに、道玄坂を登っていた。

途中、何人かに挨拶をされたが、何処の人間だったか思い出せなかった。

気付いたら、澤村のマンションへ来ていた。

そして、インターホンを押していた。
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