凶漢−デスペラード
渇いた笑い声の中で、竜治だけは顔を強張らせ、澤村の次の言葉に神経を研ぎ澄ましていた。

「淫行罪どころか、一歩間違うと幼児虐待で強姦が適用されちまう。何年かして娑婆に戻って来ても、奴は二度と渋谷はおろか、東京じゃ飯は食ってけねえな。ま、これも自業自得てやつか…それで、だ…神崎、田代がやってたシノギを当分お前がやれ。」

「自分が、ですか?」

「シノギといったってシャブの売がメインだけどな。但し、奴の時より少しばかり捌く量は増える事になる。実は、関西の方にオジキと一緒に行ってたのは、その件が絡んでの事だったんだけどな。」

そう言うと、澤村は河田を改めて紹介した。

「クスリ絡みはこの河田が全て窓口になる。こいつは、近々俺と盃して舎弟分になるから、そう思って付き合って行け。」

河田が宜しくと頭を下げる。

「ただ、田代がパクられた直後だから、暫くは大人しく様子見だ。下っ端の売り子共は、田代にゲロられると思って、今んとこ姿隠してるが、いずれ金が欲しくなって戻って来るだろう。お前、上手く仕切れよ。何だったら、そっくりメンバーチェンジして構わないから。」

「はい…」

「それにしてもお前、見掛けによらずハードボイルドな野郎だなァ。」

澤村の冗談に他の二人も笑った。

話しは済んだと言われ、では、と竜治が腰を上げると、

「今度、家で久美子の手料理食わしてやるから。あいつ、お前の事気に掛けてるみたいだぜ。」

階段を昇り、地下の店から地上に出ると、何だか深海の底から浮上したような気分になった。

降り注ぐ陽射しは、冬とは思えない程眩しかった。

ハチ公前の交差点を人の塊が前後左右に移動して行く。
見上げた先に、悩ましげなポーズを作って見つめる歌手がいた。
ビルの大画面ビジョンに映るその歌手は、何時も放送コードぎりぎりの衣装で歌い、踊る。

田舎から出て来たばかりのお上りさんのように、竜治は人込みの中で、その画面を見るともなく、立ち尽くしていた。

お咎め無し……か…

なわけねえよなァ……

何度目かに信号が変わった時、漸く竜治は交差点に足を踏み出した。
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