凶漢−デスペラード
澤村と他の二人は、まだアテネに居た。

「河田、奴をどう思う?」

「以外と腹が据わった男ですよね。」

「オジキ、いずれそちらの方とも仕事で絡んで来ると思うので、その時は目をかけて貰えますか?」

塚本が頷くと、河田が、

「澤村さんは、あの男の何処を買ってるんですか?」

と聞いて来た。
少し間を置くようにしてから、

「正直言って、特にこれという理由は無いんだ。強いて言えば…染まって無い所かな…この先、どういう色になるのか楽しみでね。」

「しかし、奴もいい玉ですよね、兄貴に田代の事をカマ掛けられてもピクッとも表情を変えませんでしたからね。」

「それにしても、奴が田代の事をやっちまったとよく判ったな。」

澤村はグラスに入っていた氷を口の中に入れ、ガリガリとかじり始めた。

「勘だよ勘。」

「勘ですか?」

「方程式と言った方がいいかな…足し算、引き算、掛け算に割り算、全部やっちまうと残ったのが神崎という名前だったのさ。」

「成る程…奴もまさか兄貴に感づかれるなんて思ってもいなかったでしょうね。」

「どうかな…違ってるかも知れねえし、当たってるかも知れねえ。なんせ、答合わせしてくれる張本人が、恐らく死ぬ迄本当の事は言わねえだろうからな…」

裏の世界に於ける情報の伝達スピードは、表の世界の数倍早い。
時にそれは、かなりの誇張が伴うもので、様々な人間達の思惑も絡み、よりスピードを増す。

この日を境に、神崎竜治という名前が、裏の世界に関わる者達の意識にしっかりと植え付けられた。


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